外来診療婦人科

婦人科

腹腔鏡下手術

女性の生殖臓器である子宮、卵管、卵巣は、お腹の中(骨盤内)にあります。従来から行われている開腹手術では、お腹を10cm程度切開します。一方、5mmか12mmの筒(トロカー)をお腹に入れて、その筒の中に望遠鏡のような腹腔鏡を挿入すれば、外からは見えないお腹の中を観察することができます。この最新技術を手術に応用したのが腹腔鏡下手術なのです。近年の手術機器や周辺機器と技術の進歩により、5mmや12mmの切開3~4箇所(症例によって1ヶ所は30mm程度必要)で手術を行うことが可能となりました。それによりお腹の傷はあまり目立たなくなりました。
谷川記念病院婦人科では、手術を必要とする良性の産婦人科疾患をお持ちの患者さんに対し出来るだけ多くの腹腔鏡下手術を提供すべく努めております。

腹腔鏡下手術の方法とは

(1)
専門の麻酔科医師による全身麻酔の管理下に手術をします。
(2)
通常は、お臍のすぐ上に10mmほど切開して筒(トロカー)をお腹の中に入れて、そのお腹の中を膨らませるために二酸化炭素ガス(CO2)を入れる処置(気腹)をします。
(3)
その筒の中に腹腔鏡(特殊小型カメラ)を入れると、光で照らされたお腹の中の状態をモニターテレビに映し出すことができます。
(4)
次に、下腹部に5mmまたは10mm程度の切開を加えて、手術操作をするための鉗子(マジックハンド)用の筒を入れます。
(5)
腹腔鏡によって映し出されたモニターテレビを見ながら、いくつかの鉗子を使い分けてお腹の中で切ったり、縫ったりして手術をします。

腹腔鏡下手術でできる内容は

子宮の手術
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮脱、ほか
卵巣の手術
卵巣嚢腫、卵巣捻転、卵巣出血、ほか
子宮内膜症
チョコレート嚢胞、骨盤内癒着、病巣除去、ほか
(直腸や小腸など、膀胱や尿管などに対しても)
卵管の手術
卵管妊娠、卵管閉塞、卵管水腫、避妊手術、ほか
尿失禁手術
尿道吊り上げ、子宮吊り上げ、ほか
他の手術
急性腹症、不妊症、ほか
特殊な手術
人工造膣術、早期の悪性腫瘍、ほか

腹腔鏡下手術の方法とは

体重は手術に影響しますか?
はい。大いに影響します。肥満があれば腹腔内での鉗子操作が制限されて腹腔鏡下手術は危険になります。肥満度(BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))で26.6以上は肥満です。30を超える場合にはお断りしております。(なお、基準は22です。)
なぜ、全身麻酔をかけるのですか?
意識がある状態で気腹(CO2ガスでお腹を膨らませる)をすると、横隔膜が圧迫されて息苦しいので、全身麻酔をします。その方法は、気管内にチューブを入れるかラリンジアルマスク法で、人工呼吸器で呼吸管理をします。また、安全に手術ができるよう気腹の方も自動気腹装置を使って腹腔内圧を一定に調節します。
入院は必要ですか?
はい。手術ですので、入院を必要としております。当院では通常2日前に入院、手術後4~7日で退院となります。入院中は患者さん間で体験談などの意見交換がされております。また、回復すれば、外出してお茶やショッピングなども可能です。
何カ所ぐらい切開するのですか?
通常は、癒着がなければ卵巣嚢腫で2~3ヶ所、子宮筋腫では3~4ヶ所です。1つは腹腔鏡用で、他は操作をする鉗子用です。しかし、必要時にはトロカーの追加や小切開(30mm程度)して摘出や修復、摘出臓器の回収などをする場合もあります。
手術時間の目安は?
癒着がなければ、卵巣嚢腫では大体60~90分位、子宮筋腫などの子宮摘出や筋腫摘出では、90~120分位。子宮内膜症では120~150分位です。しかし大きさや癒着の状態などでさらに時間がかかる場合や、状況によっては開腹手術に切り替わる場合もあります。

腹腔鏡下手術のメリットとは?

手術後の痛みの程度は、お腹の傷の大きさ(長さ)にも関係します。たとえ5mmや10mmの傷であっても痛みます。手術する子宮、卵巣、卵管などからの痛みもゼロではありません。しかし、開腹手術に比べて腹腔鏡下手術では、傷が小さな分だけ痛みも少なくてすみます。手術後の身体の回復にとって、痛みが少ないことが大切なのです。それにより、早期の歩行もでき、入院日数も少なくてすみ、早い社会復帰も可能となります。

もう一つのメリットに、開腹手術に比べて手術後の臓器間の癒着が少ないことが挙げられます。開腹手術の場合では、子宮、卵巣、卵管などの生殖臓器や腸管や腹膜などを空気にさらしたり、手(手袋)で直接触れたりします。このようなことが原因となって癒着が起こることも言われてます。癒着は不妊症の原因になることもあります。未婚の方や挙児を希望される方にとっては大きな問題となります。一方、CO2ガスで気腹する腹腔鏡下手術では、腹腔内臓器を空気にさらすことなく、臓器に優しく繊細で精巧な操作ができる、などのことで癒着が起こりにくいと考えられてます。さらに、何と言っても小さな傷ですむということは、美容の面からは極めて大きなメリットとして挙げられます。

腹腔鏡下手術と開腹手術の比較から

術中・術後において特に問題のない症例での術後経過の比較。

  腹腔鏡下手術 従来の開腹手術
手術後の痛み 痛み止めはあまり必要としない 痛み止めを必要とする
※持続硬膜外麻酔の併用も可能
手術後の回復 1日目から食事、歩行の開始
2日目からシャワー可能
2日目から食事、歩行の開始
3日目からシャワー可能
手術後の退院 卵巣嚢腫:4日目
子宮摘出:7日目
筋腫摘出:7日目
手術内容によって異なるが
一般的には7~9日目
社会復帰まで 手術後1~2週間位で可能 手術後2~4週間位は無理
手術後の癒着 開腹に比べて少ない ある程度は避けられない

腹腔鏡下手術には限界もあります

腹腔鏡下手術を提供する大きな目的は、術後の患者さんの身体的負担を軽減することにあります。しかし、腹腔鏡下手術にこだわることで患者さんへの負担(手術時間の延長、出血が多くなる、他臓器の損傷など)が増すようなことがあってはいけません。腹腔鏡下手術が可能な患者さんに対しては、この手術をお薦めしますが、適応に限界もあります。もしも、この方法が無理であったり適切でないと判断される場合には、従来法である開腹手術を選択します。そのために開腹手術があるのです。
また腹腔鏡下手術の途中、適切な対処が出来ないと判断した場合には、ためらうことなく開腹手術に変更する場合もあります。いずれにしましても、治療に当たって、患者さん側にとっても医療者側にとっても共にメリットがあることが大切です。次のような事態が起きた場合には、開腹に移行することを十分ご理解の上で手術を受けて下さい。とはいえ、当科では腹腔鏡下手術から開腹に移行しなければならなかったのは、多少難しい症例を含めましても約200件に1件くらいの程度です。

ケース1. 腹腔鏡でお腹の中を観察したところ、癒着がひどい!
手術を進めるには癒着がひどく、腹腔鏡下手術では4時間も5時間もかかりそうで、危険も伴いそう・・。開腹すれば2時間ほどですみそう・・。などと判断した場合には、早めに開腹手術に切り替える方が、より安全で早く、身体にとってもかえって負担が少ないこともあります。
ケース2. 腹腔鏡下手術中に、大きな血管から出血が!
出血させないように慎重に操作しますが、時に大きな血管からの大出血や剥離面からの出血もあります。腹腔鏡下に止血できる場合もありますが限界もあります。開腹の方がより迅速で確実に操作ができ安心できます。
ケース3. 悪性(ガン)が見つかった場合!
腹腔鏡でお腹の中を調べて悪性(ガン)の所見が見つかり、腹腔鏡下手術が適切でないと判断した場合は、開腹に切り替えます。また、摘出標本から後日に悪性が見つかった場合は、適切な追加治療をします。
ケース4. 腹腔鏡下手術中に、腸管に穴が開いた!
腸管には気をつけて手術操作をします。しかし、子宮内膜症や他の原因による癒着に対しては、手術を進めるためには剥離操作が必要になります。そのような時に直腸や小腸などを損傷させることもあります。腹腔鏡下での修復処置が困難な場合には、開腹手術で修復をします。
ケース5. 腹腔鏡下手術中に、膀胱や尿管に損傷を起こした!
特に子宮内膜症の手術や癒着を伴った症例での子宮摘出術の場合、膀胱や尿管を損傷する危険性や損傷を起こすことがあります。腹腔鏡下の処置が困難な場合には、開腹手術で確実に修復をします。

腹腔鏡下手術にはリスクもあります

腹腔鏡下手術では腹腔鏡によってお腹の中の様子がテレビ画面に映しだされます。術者やスタッフ全員がその同じ画面を観察して、細心の注意をして手術をします。そのためには、いろいろな操作鉗子や器機、ハサミや針、電気メスや超音波メス、クリップや自動縫合器などを使い分けながら繊細で精巧な手術を慎重に進めていきます。しかしながら、リスク(危険性)が全く伴わない手術ではありません。次のような事態が起こりうることもご承知しておいて下さい。

ケース1. 輸血が必要となることもあります
腹腔鏡下手術であっても、主治医が患者さんの身体にとって輸血が必要と判断した場合には、輸血をします。実際には、腹腔鏡下手術で輸血が必要となるのは100~200件に1件ほどですので、あまり心配するには及びません。しかし、癒着を剥がしたり、臓器の切開や修復や回収をすると、出血はゼロではありません。前もって出血が多くなると予測できる場合(特に、広範囲の癒着を伴う子宮内膜症、子宮摘出や筋腫摘出など)には、当科では手術の2~3週間程前に自分の血液400mlを貯めたうえで(自己血貯血法)、手術を受けてもらう場合もあります。手術中の出血量が200~400mlを超える場合には、手術中に戻します。出血が少ない場合には、翌日または後日の検査を確認したうえで返血するか廃棄するかを判断します。
ケース2. 術後の経過観察や適切な処置が必要になる場合もあります
産婦人科手術では、子宮、卵巣、卵管などが主な対象臓器です。しかし、骨盤内には、他にも膀胱、尿管、小腸、大腸などの臓器、大血管や神経などがあります。これらの臓器と癒着しておれば、手術は難しくなります。そのような場合、関連臓器を傷つけたり、手術後の経過観察や適切な処置が必要となることがあります。また、腹腔鏡下手術では、適切な剥離や修復が出来ないこと、手術後の腹腔内出血、臓器損傷や腸管閉塞などが発生することもあります。そのような場合には、再度開腹手術などによる適切な処置を必要とすることもあります。ところで、極めて希でありますが、日本国内においても腹腔鏡下手術での死亡例の報告もあります。

腹腔鏡下手術のスケジュール

Step1
外来で担当医から腹腔鏡下手術の話をよくお聞きください ご自分の身体の状態、手術の目的、方法、リスク(危険性)、入院日数、その他の治療方法などについても聞き、納得して手術を選択して下さい。
Step2
手術のための外来での検査内容と自己血貯血 手術前の血液検査(貧血、生化学、感染症など)、心電図、肺機能、胸部レントゲン撮影などの検査があります。希望があれば自己血貯血もします。
Step3
手術の日が決まります 手術の日程は、患者さんのご希望と病院内のスケジュールなどを調整して決まります。また、やむをえず手術日が変更になる場合もあります。
Step4
手術後と手術に備えて 通常は手術の前々日の指定された時間に入院していただきます。入院後は診察、検査、術前説明、除毛、眠前の薬など、手術の準備もあります。
Step5
手術の当日 朝から絶食、血管確保をして点滴をします。全身麻酔で手術を行います。膀胱には管が入りベッドで安静になります。血圧測定などもします。手術~手術翌朝まで酸素マスクと両下肢に弾力ストッキング着用で空気圧迫器具を装着します。
Step6
手術の翌日(術後1日目)とその後 通常は、1日目からのトイレや病棟内歩行、軽度の食事などができます。ガーゼ交換で特に異常なければシャワーもできます。その後の経過も良好であれば、3日目にはリハビリを兼ねた病院近くの外出も可能になります。
Step7
退院 癒着のない卵巣嚢腫や卵巣疾患、癒着の軽度な子宮内膜症などでは、4日目の退院。子宮摘出や筋腫核出などは、通常は7日目の退院となります。
Step8
退院後の外来診察 卵巣嚢腫や卵巣疾患、軽度な癒着の子宮内膜症などでは、退院後の1~2週間目に外来受診。子宮筋腫摘出や子宮全摘出などでは、退院後の2~3週間目に外来受診を受けていただき、入浴、性交為を含めた全ての解禁の指示などをします。摘出した病理組織の結果についても説明します。
Step9
その後の経過観察 術後の経過に問題がなければ、その後の検診は半年~1年毎の経過観察を受けて下さい。紹介の患者さんには、紹介元での診察をおすすめします。

腹腔鏡下手術用のクリニカルパスに関して

患者さんと医療者に共通した治療計画(スケジュール)を表にして分かりやすくしたものをクリニカルパス(パス)と呼びます。当科での腹腔鏡下手術におきましても、このパスに添って治療に当たっております。しかし、これはあくまでも検査や治療内容や行動などを一目で分かるようにしたものです。このパスに当てはまらない場合には、個々の患者さんの状態に応じた治療計画に切り替えますので、ご安心下さい。

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手術内容により、このパスは若干変わりますが、目安をお示しします。

手術内容 術後の経過 退院までの期間
卵巣嚢腫や子宮付属器などの手術
軽度な癒着のチョコレート嚢胞の手術
パス通り 術後4日目
子宮筋腫
子宮筋腫を核出する手術
子宮を摘出する手術
パス通り 個々に対応
子宮内膜症
深部病変を伴うチョコレート嚢胞
重症子宮内膜症の手術
子宮腺筋症に対する手術
パス通り 個々に対応
他臓器(腸管、膀胱、尿管など)に及ぶ手術
他臓器の子宮内膜症
人工造膣術(腸管利用)
このパスとは異なります おおよそ2週間
症例毎での対応
その他 個々に対応 経過で判断

退院後の生活について

退院が近づきましたら病棟の看護師が説明します

食事
退院後の食事は何を召し上がっていただいても結構です。しかし、手術後ですので体力も消耗しています。栄養バランスの取れた消化の良い食事を摂るように心がけましょう。
お通じ
特に、手術後は便秘になりやすくなります。
快適な便通には自分にあった方法を試みて下さい。
シャワー
退院後の外来診察日までは、シャワー浴だけにして下さい。退院後の外来診察日に問題がなければ入浴許可がでますので、ご確認下さい。
仕事
手術内容の違いや個人差があり一概には言えませんが、通常は退院後1週間くらいは疲労しない程度の身の回りのことから始め、通常の生活や仕事への完全復帰は術後1~2週間後(手術内容により異なります)からが望ましいでしょう。詳細については、退院時に説明させていただきます。
性生活
この場合も、一概には言えません。通常は性生活は術後4~8週間後が望ましいですが、手術内容の違いなどもあり、患者さんにより異なります。(なお、子宮全摘術後は3ヶ月以降です。)詳細については、退院時に説明させていただきます。※最終的には、退院後の外来診察日にご確認下さい。
心配な時
通常の月経より多い性器出血、腹部の痛み、創部の異常、38.0℃以上の発熱、などで心配な時や気になる場合は、早めに病院に連絡して下さい。必要な場合には入院していただく場合もあります。

子宮頸がんに対するレーザー円錐切除術

この手術の目的は診断を確定することと同時に、どの程度の治療が必要であるのかを明らかにすることにあります。子宮頸部レーザー円錐切除術後の病理検査の結果、病変の取り残しがなければ追加の治療は通常は不要です。ただし、術後も外来で経過をみる必要はあります。手術検体の病理診断によっては追加治療が必要となることもあります。

方法

子宮頸部をレーザーメスにより円錐状に切除します。レーザーメスは普通のメスを使用するより、出血が少ないという特長があります。頸部を円錐状に切除したのち、出血と病巣の取り残しを防ぐという意味で切開部分に熱変性を加えます。手術時間は約30分ですが、麻酔かけ始めてから覚めるまでの時間を考慮にいれると手術室の滞在時間としては2時間程度です。

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副作用

レーザーメスによる切開は出血が少ないという特長がありますが、全く出血しないというわけではありません。手術終了時には切開部に「かさぶた」が形成されて止血された状態となっています。このかさぶたがはがれるのは術後約7ー14日ですので、退院直後よりはむしろ、退院後しばらくしてから出血することがありますが、ナプキンに少量付着する程度であれば問題ありません。切開部の傷が治癒するのには5−6週間かかりますので、その間はスポーツやセックスを避けていただいています。また、便秘も出血の原因となりますので、便通のコントロールも必要です。子宮頸管部の傷が治る過程において頸管が狭くなる場合があります。いままで生理痛がなかった人も稀に生理痛を感じるようになる場合があります。ごく稀に頸管閉塞を起こす場合があり、再開通術が必要となる場合があります。

手術翌日に腹部違和感、軽度腹痛を感じることがありますが、時間とともに軽快します。術後しばらくおりものが続きますが通常は心配いりません。

この手術の目的は子宮を温存し、将来の妊娠・出産の可能性を残すことのできる手術です。手術を受け、その後に妊娠した場合の早産のリスクは20%ですが、手術をうけていない場合は9%となっており、手術をうけた場合には若干そのリスクが高くなることがわかっています。尚、妊娠中に本手術をうけた場合、早産のリスクは本手術を施行していない場合と比べ、その危険度が増すということはありません。

入院期間と入院生活のスケジュールについて

原則として、手術前日の午前中に入院していただきます。婦人科担当医師からは時間を決めて手術の説明があります。この手術の説明に際しては、ご本人はもちろんのこと、ご家族の方も同席していただき、手術に関する同意書をはじめとする書類に署名をお願いしています。この書類には署名捺印の欄がありますので印鑑を持参してください。手術当日はご家族に来院していただき、手術中は病院内に待機していただきます。手術終了後、担当医師よりご家族に手術経過の説明を行います。手術後に、問題がなければ翌日に退院となります。したがって入院期間は原則2泊3日ですが、手術前日が祝祭日の場合にはその分だけ入院期間が長くなります。